『新訂肥後藩国事資料六巻』p660~

六月十一日、在長崎の荘村助右衛門は英国公使パークスの行動に関するフルベッキの談話を奉行道家角左衛門に報告す

❲慶応二年正月より 探索書控❳

謹んで記し上げ差し上げます。港内の事情は長崎にお出での最中にご見聞の通りで御座いますところ、またまた大いに打って変わりました形勢は、昨夜フルベッキから内話を極密にうかがい取りました件を、右に記し上げ差し上げます。
去る七日(大軍艦が薩州へ出船する期日)、アトミラール〔※提督〕、ミニストル〔※公使〕の二人からフルベッキに書状をやり、言って寄越します内容は、同人は日本に年久しく居ります。多分に日本士人とも交際するとの事なので、当時の形勢につき、うかがっております状況もあるはず。諸事承りたくとの内容を言って寄越します事情。
フルベッキから返答いたします。その様子は思い当たる状況がある。長々事情を書き記し、直ちに英国女王殿下への呈書を包み持ちますといっても、今しばらく形勢を観察の上はと考えて差し控えております。はじめの事情を見聞きした状況がありますので、こちらに参り承りますよう返答に及びますから、同八日ミニストル〔※公使〕、アトミラール〔※提督〕ならびに領事館が承りましたので、フルベッキ演説の大概は左の通り。
港内の商民は外国の形勢をちっとも知りません。それなのに諸藩の遊学生の中には各国二度の集会の論談を始め、薩長にミニストル〔※公使〕が参りました目的も、このようにあるに違いないと論じ、あるいはもしかするとこの意味かと疑いますなどと話しました。
諸方面にもこれがあります。大君〔※将軍〕の権勢を削ります場合に、企てる順序の論争等までも見聞き致しておりますとの内容を話し聞きました所、時務宰相、アトミラール〔※提督〕の二人はお聞きしまして、たびたび一様でないなりで驚愕いたします。
そのように二人から申し出ますので、このほどこの勅書は真 勅ではないとの事柄を、証拠を例に挙げ告げ知らせました。諸方面もこれがありますので、よんどころない各国の集議にも行きます道理でございます。
もちろん薩長へ参ります事柄も差し止めます。このまま直ちに江戸海へ帰るつもりです。
二度の集会は大君〔※将軍〕の威権を削りますなどの論は、勅書の真贋の論から事が起きました。一時の論でありますので、決して大君〔※将軍〕のためにならないことを相談をする、などの暴策を企むようですけれども、これではなく、この件はそのように心にとどめておいてくれますようにとの事。
フルベッキは英国女王から英人居留の者、普段から法を作るときの正不正の監察を頼むことがありますとの事。
フルベッキは言う。もし、ここでは双方完全に権を取り合いますといっても、初めの一念は止め難いものです。この期をぬかしこっそり出帆致し、薩長には必ず参るつもりと考えます。
摂海の遅速はあらかじめ推測し難くございますけれども、必ず明くる年の期限には、メリケンを始め各国参るはずでございます。この期限は決して一通りではない。
皇国の御大難事でございますので、ここに完全にフルベッキと領事館マンゴンの二人の論争にくじけ、引き続きメリケン水師提督に参って出会い、薩人の権謀は十分に運びませんのでと聞きます。
長崎にお出での最中の形勢とは大きく事情は変動致しますので、ガラナーダ出帆の時期になり書き記し、直ちにこのまま中松助作に託します。多忙に書き記し御推覧に入れます。ざっと目を通してください。以上。

六月十一日
荘村助右衛門
道家角左衛門様

※同人=志を同じくする人。ここではフルベッキのこと。
※時務=その時その時に応じた重要な仕事。その時の急務。